SAM命名法(案)

Naming

老化促進モデルマウス(SAM)の系統名表記法(案)

平成14年3月1日

SAM系統命名検討委員会

委員長
森 政之(信州大学医学部附属加齢適応研究センター 脈管病態分野)
樋口京一(信州大学医学部附属加齢適応研究センター 脈管病態分野)
加藤秀樹(浜松医科大学医学部附属動物実験施設)
細川昌則(京都大学再生医科学研究所)

マウスの系統の命名に関しては、1952年よりInternational Committee on Standardized Genetic Nomenclature for Miceにより国際的な命名規約が定められている。トランスジェニック技術、遺伝子ノックアウト技術、コンジェニック系統の作出等、マウスを用いた実験技術の発展に伴い、国際命名規約も6回の改定を経ている。現在は、1996年に制定された最新版が使用されている。

SAM系マウスの命名法に関しては、1989年版の国際命名規約に準拠した試案がSAM研究協議会により考案され、1991年8月9日付けで提示されている。しかしながら、現状は全てのSAM研究者がこの試案での規約を遵守しているとは言い難い。また、前述のごとく国際命名規約も1989年版より大幅に改定されている。

SAM系マウスが世界的に使用されている現状、および日本SLCにより国内販売、Harlanにより海外での販売が開始されることを鑑みると、この国際的な命名規約に則った系統命名法を早急に制定しておくことが望ましい。

そこで、1996年版の国際命名規約に準拠した、SAM系マウスの命名に関する新たな試案を作製し、SAM研究者に提示することとした。以下に特に混乱の大きな系統名の表記法と維持施設(研究者)の表記法について解説を加えた。これらは全て、SAM系マウスが定められた交配様式により近交系として維持されていることを前提としている。

なお、原文(英語)の国際命名規約の閲覧を希望される方は以下のサイト、あるいは書籍を参照されたい。

http://www.informatics.jax.org/mgihome/nomen/strains.shtml#Inbred

Committee on Standardized Genetic Nomenclature for Mice, Chairperson: Davisson, M.T. Rules for nomenclature of inbred strains, pp. 1532-1536. In: Genetic Variants and Strains of the Laboratory Mouse, Lyon, M.F., Rastan, S., and Brown, S.D.M. (eds.), Third Edition, Volume 2, Oxford University Press, Oxford, 1996.

SAM系統表記法

平成13年7月12日
SAM系統命名検討委員会

老化や寿命といった形質は飼育環境による影響を受け、大きく変化する。また、近交系化前に分与された場合には残存していたheterozygosityの固定、あるいは突然変異などにより、同じコロニーに由来するものであっても維持機関により性質が異なる可能性がある。これらの遺伝的プロファイルの変化が実験結果に影響する可能性がある。
したがって、SAM系マウスを用いた実験を論文等で発表する際には、マウスが維持されていた場所(あるいは機関)を明記することが必須である。

< 系統表記法の原則 >

系統名は全て英大文字とアラビア数字で表す。ハイフン(-)は使用しない。

SAMP1
SamP1, SAMP-1, SAM-P1, SAMP/1, SAM-P/1

1. SAM系統の原種とその亜系統

SAM研究協議会は、国際命名規約に従い、京都大学再生医科学研究所(以下、再生研)のコロニーをSAM系マウスの原種とし、その他の機関の系統については亜系統(substrain)とする。

2. 原種および亜系統の表記法

2.1. 再生研で確立されたSAM系の原種の表記

京都大学再生医科学研究所で飼育されたSAM系マウスの原種に限り、系統名のみで表記する。

(例1)
SAMP1
2.2. 再生研から他機関へ分与されたSAM系統の表記

現在の表記法ではsubstrainとcolony holderという概念があり、それぞれslanted line (/)と@で表記することになっている。
すなわち、明らかな遺伝的相違がある場合にはsubstrain としてslanted line (/)を用い、それ以外は維持機関(者)を明示するため@を用いる。(付記1参照)
SAM系マウスに関しては、長期間にわたる分与歴や遺伝的相違の検定の困難さから考えて、維持機関(あるいは研究者)をマウス系統名の後ろにslanted line (/)で区切って表記する。すなわち、全てsubstrainとして考えるのが妥当と考えられる。

2.3. 亜系統の表記

通常は例2のように系統名の後ろにslanted line (/)を付け、続いて維持する施設(あるいは研究者)の登録コード (付記3参照) を表記する。例3のようにslanted line (/)に続いてアラビア数字を入れ、最後に施設登録コードを付す場合もある。また、亜系統においてさらに遺伝的変化の可能性があるケース(亜系統の亜系統)もあるが、その場合は例5にならって表記する。

(例2)
SAMP1/Kyo

例2の解説:京都大学医学部附属動物実験施設(施設登録コードはKyo)で維持されるSAMP1(原種)であるが、ある遺伝的変異が認められたか、あるいは前述の理由により遺伝的に異なる可能性があるために亜系統としたことを表している。

(例3)
SAMR1/1Ta, SAMR1/2Ta, SAMR1/3Ta

例3の解説:たとえば同じSAMR1系統が異なる時期に武田薬品工業に導入された場合、slanted lineの後ろにアラビア数字で番号を付し,導入時期の違いを表している。以前は20代の兄妹交配を完了する以前に京都大学結核研(現在の再生研)より武田薬品工業に譲渡されたものをSAMR1TA、20~40世代で譲渡されたものをSAMR1/Ta、40 世代以降に譲渡されたものをSAMR1//Taと表記されていたものを例に示したように改めた。(付記1参照)
なお、実際に原種SAMR1とSAMR1/1Ta(旧SAMR1TA)との間には明らかな形質の相違と、 provirus markerの有無等の遺伝的相違が証明されている。

(例4)
SAMR1/1Ta@Yit
(例5)
SAMR1/1TaYit@Yit
(例6)
SAMR1/1TaYit@Ham

例4、5、6の解説:例4は武田薬品工業からヤクルト本社中央研究所(Yit)に分与されたSAMR1/1Taが新たな維持コロニーが出来た場合を示す。SAMR1/1Ta@Yitが元のSAMR1/1Taとは明らかに遺伝的に異なることが判明した場合、亜系統として例5に示すようにSAMR1/1TaYit@Yitと表記する。SAMR1/1TaYit@Yitがヤクルト本社中央研究所から浜松医科大学医学部附属動物実験施設に分与され、新たな維持コロニーが出来た場合は例6に示すようにSAMR1/1TaYit@Hamと表記する。

3. SAM系統の命名の改廃

SAM系統命名検討委員会に委ねることとする。

付記1:国際命名規約における命名法の改廃

1989年版の国際命名規約では他機関(研究者)にマウスが分与された場合、亜系(subline) と称し、系統名にdouble slated line (//)と維持機関の略称を付加して表記することとしていた。現在、この命名法は廃止されている。

付記2:日本エスエルシーから販売されるSAM系マウスの表記

系統の表記については,上記の表記法を採用する。

付記3:Laboratory Registration Codeの承認手続き

Laboratory Registration Codeに関して国際規約が定められている。
新たな機関略称の登録はU.S.A. National Academy of Sciences in Washington D.C.にあるInstitute for Laboratory Animal Resources(ILAR)に登録名を申請し、その承認を得る。
現在SAM系マウスを維持している、あるいは今後予定している全ての研究機関はこの手続きをとることが望ましい。

機関名コードの登録申請に関する、よくある質問とその回答:

Q1.
登録費用と維持費用は必要か?
A1.
不要。
Q2.
申請画面の USDA certified? とは何のことか?、また、Y/N どちらをクリックしたら良いか?
A2.
USDAはUnited States Department of Agricultureの略である。米国ではUSDAが「Animal and plant health inspection service」という活動を行っており、実験動物もこの対象となるか。日本からの申請の場合はNoをクリックすれば良い。

この老化促進モデルマウス(SAM)系統名表記法(案)を御検討いただき、ご意見やご質問を森 政之先生 (masamori@sch.md.shinshu-u.ac.jp)あるいはSAMのホームページの質問箱へお願いいたします。